最近、お客様から「自動ブレーキが義務化されるって聞いたけど、ウチの車は大丈夫?」「今の車を買い替えなきゃダメ?」というご質問をよくいただきます。2026年7月から、いよいよ輸入車の継続生産車にも衝突被害軽減ブレーキ(いわゆる自動ブレーキ)の搭載が義務化され、国産車を含めたほぼすべての新車に自動ブレーキが標準装備される時代に突入します。
この記事では、整備士として毎日クルマの安全を守っている立場から、「義務化で何が変わるのか」「今乗っているクルマはどうなるのか」「これから買うならどう選ぶべきか」を、できるだけ分かりやすくお伝えします。
そもそも衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)って何?
衝突被害軽減ブレーキとは、クルマに搭載されたカメラやレーダーが前方の障害物(車両・歩行者・自転車など)を検知し、ドライバーがブレーキを踏めなかった場合に自動でブレーキをかけて衝突を回避、または被害を軽減するシステムです。
よく「自動ブレーキ」と呼ばれますが、正式名称は「衝突被害軽減ブレーキ(AEBS:Advanced Emergency Braking System)」です。「完全に事故を防ぐ」ものではなく、「被害を軽減する」ものなので、過信は禁物です。
自動ブレーキのセンサーは主に3タイプ
整備の現場では、センサーの種類によってメンテナンスのポイントが変わります。
単眼カメラ方式:フロントガラスの裏側にカメラを設置。歩行者や車線を画像認識で検知します。コストが安く軽自動車に多いですが、夜間や悪天候時の性能がやや劣る傾向があります。
ミリ波レーダー方式:電波を使って前方の物体との距離・速度を計測します。天候の影響を受けにくい反面、歩行者の検知精度はカメラに劣ります。
カメラ+レーダー併用方式:両方の長所を組み合わせた最も高性能なタイプ。中・上級グレードの車種や最新の軽自動車に採用が広がっています。
整備士の立場からひとつアドバイスすると、フロントガラスの交換やフィルム施工の際には要注意です。カメラ方式の自動ブレーキは、フロントガラスの状態がセンサー精度に直結します。社外品のガラスに交換した結果、自動ブレーキが正常に作動しなくなった事例を私も何度か経験しています。
義務化のスケジュール:いつから?どの車が対象?
自動ブレーキの義務化は段階的に進められています。ここが最もお客様に聞かれるポイントなので、整理してお伝えします。
義務化の全体スケジュール
2021年11月~:国産の新型乗用車に義務化(ここからスタート)
2024年7月~:国産新型車に「自転車検知」の追加義務(時速15kmで横断する自転車に対し、時速38kmで衝突しない性能が必要)
2025年12月~:国産の継続生産車にも義務化拡大
2026年7月~:輸入車の継続生産車にも義務化+国産継続生産車への自転車検知義務
2027年9月~:軽トラックにも義務化
つまり、2026年7月以降は、日本国内で販売されるほぼすべての新車に自動ブレーキが搭載されることになります。これは世界的に見ても先進的な動きです。
新基準で求められる性能
義務化される自動ブレーキには、具体的な性能基準が定められています。
- 静止車両に対して、時速40kmで走行中に衝突しないこと
- 時速20kmで走行する車両に対して、時速60kmで走行中に衝突しないこと
- 時速5kmで横断する歩行者(6歳児相当・身長115cm)に対して、時速30kmで走行中に衝突しないこと
さらに2026年7月からは、国産継続生産車にも「自転車横断検知」が追加されます。これは日本の交通事情を反映した重要な改良で、通学路や住宅街での安全性が大きく向上すると期待されています。
今乗っているクルマはどうなる?買い替えは必要?
結論から言うと、今のクルマを慌てて買い替える必要はありません。
義務化の対象はあくまで「これから新車として販売される車両」です。すでに所有している車に自動ブレーキが付いていなくても、車検に通らなくなることはありません。中古車として売買する際にも、自動ブレーキの非搭載を理由に販売が禁止されることはありません。
ただし、整備士として正直にお伝えしたいのは、自動ブレーキ搭載車と非搭載車では、事故時の被害に明確な差があるということです。
国土交通省の統計によれば、衝突被害軽減ブレーキ搭載車は非搭載車に比べて追突事故が約5~6割減少するというデータがあります。私の整備現場でも、自動ブレーキが作動して大事故を免れたというお客様の声を何度も聞いています。
自動ブレーキの後付けはできる?
現状では、新車装着レベルの自動ブレーキを後付けするのは非常に困難です。車両の制御コンピュータと一体化した設計になっているため、個別の部品として取り付けることはできません。
ただし、ペダル踏み間違い防止装置(急発進抑制装置)は後付けが可能です。トヨタの「踏み間違い加速抑制システム」など、約4~5万円で装着できる製品があります。特に高齢ドライバーの方には、私も積極的におすすめしています。
これからクルマを買うなら:自動ブレーキの性能で選ぶポイント
2026年以降は、ほぼすべての新車に自動ブレーキが付いています。しかし、「付いているかどうか」よりも「どれだけ高い性能か」が重要な時代になっています。
整備士が教える3つのチェックポイント
1. 検知対象の広さを確認する
最低限は「車両+歩行者」の検知ですが、最新の車種は「自転車」「自動二輪」「夜間の歩行者」「交差点での右左折時の対向車」まで検知できるものがあります。とくに通学路の近くにお住まいの方や、夜間運転が多い方は、この検知範囲の広さが非常に重要です。
2. 作動速度域をチェックする
自動ブレーキが作動する速度域はメーカーやグレードによって異なります。「時速30kmまで」のものもあれば「時速100km以上」でも作動するものもあります。高速道路をよく使う方は、高速域でも作動するシステムを選ぶべきです。
3. JNCAP評価を参考にする
国土交通省と自動車事故対策機構(NASVA)が実施する「自動車アセスメント(JNCAP)」では、車種ごとの衝突安全性能と予防安全性能を☆の数で評価しています。JNCAP公式サイトで無料で確認できます。クルマ選びの際はぜひ参考にしてください。
軽自動車でも安全性能は進化している
「軽自動車は安全性が低い」というイメージを持っている方がまだ多いのですが、2026年現在の軽自動車の安全装備は驚くほど進化しています。
- ホンダ N-BOX / N-WGN:ミリ波レーダー+単眼カメラ併用で、夜間歩行者・自転車まで検知。JNCAPでも最高評価クラスの実力です。
- スズキ スペーシア / ハスラー:「デュアルセンサーブレーキサポートⅡ」で右左折時の歩行者・自転車・対向車まで検知可能。後退時の自動ブレーキも搭載。
- 日産 ルークス / デイズ:衝突安全性能で最高ランクのAランクを獲得。SOSコール機能も搭載し、万が一の事故時に自動通報してくれます。
- ダイハツ タント / ムーヴキャンバス:「スマートアシスト」で歩行者・自転車を検知。駐車時の誤発進防止機能も充実しています。
整備士の感覚では、軽自動車の安全装備はここ5年で劇的に進化しました。10年前のコンパクトカーより今の軽自動車のほうが安全性能が高いケースも珍しくありません。
自動ブレーキ搭載車のメンテナンス注意点
整備士として、自動ブレーキ搭載車ならではの注意点をお伝えします。
フロントガラスの飛び石は早めに修理する
カメラ方式の自動ブレーキは、フロントガラス越しに前方を認識しています。飛び石によるヒビがカメラの視野に入ると、誤作動や機能停止の原因になります。修理費用は小さなヒビなら1~2万円程度。放置してガラス全面交換になると10~20万円以上かかるうえ、カメラのエーミング(校正作業)が追加で1~3万円必要です。
センサー周辺の汚れに注意する
レーダーセンサーはフロントバンパーやエンブレムの裏に設置されていることが多く、泥や雪が付着すると性能が低下します。冬場は出発前にセンサー周辺の雪を払う習慣をつけてください。
エーミング作業は認証工場で
バンパーの脱着やフロントガラスの交換後には、センサーの位置合わせ(エーミング)が必要です。これは専用の機器がないとできない作業なので、必ず認証工場で実施してもらってください。DIYで行うのは絶対にNGです。
まとめ
- 2026年7月以降、日本で販売されるほぼすべての新車に自動ブレーキが義務化される
- 今乗っているクルマに自動ブレーキがなくても、車検や売買に影響はない
- 自動ブレーキ搭載車は追突事故が約5~6割減少するデータがあり、安全面の効果は明らか
- 新車を選ぶ際は「検知対象の広さ」「作動速度域」「JNCAP評価」の3点をチェック
- 軽自動車でも2026年現在は夜間歩行者・自転車検知が当たり前のレベルに進化
- 自動ブレーキ搭載車はフロントガラスやセンサーのメンテナンスが重要
自動ブレーキは「事故を完全に防ぐ魔法の装置」ではありません。あくまでドライバーの安全運転を補助するシステムです。しかし、万が一のときに命を守る最後の砦として、その効果は整備現場でも実感しています。
「ウチの車には自動ブレーキが付いているか分からない」「次のクルマ選びで安全装備について相談したい」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。整備士として、お客様の安全を第一に考えたアドバイスをさせていただきます。
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