自動車整備士の有効求人倍率は5.28倍。全産業平均の1.25倍と比べると、その深刻さは一目瞭然です。過去10年で整備士の数は約9400人減少し、整備学校への入学者数も年間でほぼ半減しました。
「求人を出しても応募が来ない」という声は、もはや珍しくありません。でも、そんな中でも着実に人材を確保し、スタッフの定着率を高めている工場があります。その秘訣は何か。それは「評価制度」「DX」「採用」を個別に考えるのではなく、三位一体の戦略として捕えていることにあります。
スタッフが辞める本当の理由
整備の現場で年以20年以上履いてきた実感として、整備士が離職する理由は「給料が安い」だけではありません。
「頓張っても評価されない」——技術力の高さが処遇に反映されない。「将来が見えない」——キャリアパスが不明確。「事務作業が多すぎる」——整備に集中できない環境。「自分の仕事が数字で見えない」——貢献度が可視化されていない。
つまり、「やりがいの見える化」と「働きやすさの向上」がセットで必要なのです。どちらか一方では、スタッフの心は動かないのです。
評価制度を、技術力と向き合う仕組みに変える
整備工場の評価制度は、どうしても「売上」や「作業台数」に偏りがちです。でも、それだけでは技術力の高い整備士や、顧客対応に優れたスタッフが正当に評価されません。
当工場で取り組んでいるのは「技術力」「顧客対応力」「チームワーク」の3軸評価です。技術力は、対応できる車種や作業の幅、資格取得状況、故障診断の精度。顧客対応力は、お客様からの評価、リピート率への貢献、説明力。チームワークは、後輩指導、業務改善提案、チーム内での協力度。
この評価をNotionのデータベースで管理することで、何が変わったか。評価基準が「見える化」され、スタッフが自分で改善点を把握できるようになりました。四半期ごとの面談が、感覚ではなくデータに基づいた建設的な対話になります。評価履歴が蓄積されるため、成長の軌跡が本人にもわかる。
「評価されている」という実感が、スタッフの定着率に直結しているのです。
DXは、若い世代へのアピールポイント
整備工場のDXというと大げさに聞こえますが、要は「紙とExcelで手作業していたものを、デジタルで楽にする」ということです。
当工場で実施したDX施策は、車検記録簿を音声入力からAI自動生成に変更して手書きからデジタルで比30分短縮。顧客管理をExcelからNotionに移行して検索と共有が瞬時に。予約管理をスクリーンショット読み取りで半自動化。部品発注と在庫管理をデータベース化。
こうした施策が、採用に与える効果は思った以上に大きい。実際、当工場でもDX導入後に応募者から「デジタル化が進んでいて魅力的」「他の工場と違う」という声をもらっています。特に若い世代の整備士にとって、「紙の伝票を手書きする工場」と「タブレットで記録できる工場」では、印象がまったく異なるのです。
採用は「待つ」から「魅せる」へ
従来の「求人サイトに掃載して待つ」だけでは、もう人は集まりません。
当工場が実践している採用施策は、SNSでの工場の日常発信、高校や専門学校への仕事体験受け入れ、「AI活用の整備工場」というユニークなポジショニング。そして何より、採用時に評価制度とキャリアパスを具体的に提示することです。
採用コストを考えると、最もコスパが良いのは「今いるスタッフが辞めない」ことです。評価制度で「頓張りが報われる」環境をつくり、DXで「無駄な作業がない」職場をつくる。その結果として定着率が上がり、口コミで「あの工場は働きやすい」と広まる。これが最も持続可能な採用戦略です。
評価制度があるから、スタッフは「長く働く価値」を感じる。DXがあるから、スタッフは「整備に集中できる」。採用活動がこの2つを魅せるから、新しい人材が集まる。3つが互いに支え合い、工場全体の力になっていく。
整備士不足という環境は、すべての工場が共通して持つ課題です。でもその課題を「スタッフを大事にする仕組み」へと変える工場と、「人が足りない」と嘆き続ける工場に分かれている。その分け目は、実はこの「三位一体」にあるのだと思うのです。
この記事は、整備工場の人材確保と経営戦略についての実践的な経験をもとに、現役整備士・関谷弘幸が執筆しました。
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